2013年3月21日木曜日

虚血性心疾患 日本人の特徴とは
























Thomas La Mela / Shutterstock.com

皆様こんにちは、’to Care for Your Heart’ の小山です。
無理のないよう週1のペースで更新していくはずだったこのブログですが、頂いた貴重なアンケートのコメントに答えるべく早々と更新です。

「リスクを解りやすく具体的に知らせるツールに興味があります」
看護師からのコメントです。このようなツールが日本にあるととても良いと思います。そして知っている人がいれば私が教えてほしいぐらいです!一つ前の記事の中にある豪の表のように一目見てリスクを予想出来るようなツール、どこかにないですかね?

私が探した限りでは最初の記事に示したmindsのガイドラインの要約か循環器学会のガイドラインを読むしか日本で日本語で信頼出来る情報を得る手が無いような気がしますが....どうでしょう?

「生活習慣病の対応として基本的な事項の徹底は重要でこれはよいと思う。日本人のデーターではないのが少々難。西洋風の食事になり、頸動脈、下肢動脈硬化が激増している印象があるので、日本人の場合、もっと厳しい数字になる気がしています」
医師からのコメントです。基本的なリスク把握が出来ているとしても日本で活動して行く限り日本人の虚血性心疾患の動向を把握していない、というのは我ながら良くないことだと思います。自分を振り返ることが出来る嬉しいコメントです。

循環器学会のガイドラインを再度じっくり読んでみました。

ガイドラインによると(p.5)日本人の虚血性心疾患3大危険因子は
血圧、喫煙、血清コレステロールであり
‘年齢とともに共通の要因として取り上げられている’

日本に住んでいる男性とホノルルに住んでいる日本人男性を比べた時に、ホノルル在住男性では
耐糖能異常、肥満、飲酒
が上記に加え危険因子となっているようです。

食生活が西洋化することで心疾患発症因子が増え発症リスクが高くなること、十分に把握しておく必要があるようです。

またガイドラインの中で喫煙と血清コレステロール単独では虚血性心疾患のリクスは上がらないが
両方重なるとリスクが高くなることを指摘しています。

リスクの高さの程度は別として、基本的な因子は欧米、豪とそう変わらない気がします。

地域の特性を考えると
農村部では高血圧が血清コレステロールよりも高い心疾患危険因子
となることや(p7)、沖縄県と広島長崎県の研究を比べると沖縄県での心疾患発症率が驚くぐらい低いことが解ります(p14) 疫学とても奥深いです。

日本では1施設や1地域の調査研究が多く大規模追跡調査が少なく疫学的指標が乏しいことをガイドラインの中で問題視していました。

最近では、31192人の基礎疾患が無い方を対象に1900年〜2006年の間に約13年間(メジアン)追跡調査した後の「糖尿病と冠動脈性心疾患の関連性」について研究論文が出されています。
Diabetes and the risk of coronary heart disease in the general Japanese population:The Japan Public health Center-based prospective (JPHC)study(2010)

その中で基礎疾患無しの方の冠動脈性心疾患の発症リスクを1.0とした時に糖尿病境界型の方のリスクが1.65(95%CI. 1.19-2.29)であり糖尿病の方のリスクが3.05(2.03-4.59)であり、空腹時血糖が5.6mmol/ℓ以上の場合にリスクが高くなるという結果が出ていました。

単純にいうと、耐糖能に問題が無い人と比べて境界型糖尿病の方は約1.6倍、糖尿病の方は約3倍心疾患を発症しやすい、ということになります。

2009年の論文ではメタボリック症候群と心血管死亡率や全因死亡率との関係を調査しています。
Metabolic Syndrome and All-Cause and cardiovascular disease mortality :Japan Public Health Center-Based Prospective (JPHC) study こちら(英語)

この研究ではメタボリックシンドロームが心血管死亡率と全因死亡率の中等度のリスクになりうるが、それよりもメタボリックシンドローム無しだが糖尿病や高血圧など危険因子を多数持っている方が死亡率が高いという結果になっています。

JPHCstudyでは日本人と心血管疾患と様々な因子との関係を調査しています。日本から発信された日本の虚血性心疾患についての情報をこれから少しずつ得たいと思います。

研究論文は探せば出てきますが、医療者以外の誰が見ても解るような具体的な行動計画を示したガイドラインが見つからないのは困ったことだと思います。見つからないのは私の努力不足でしょうか?

豪のように高リスクなら医師の指示に従い中リスクなら半年〜1年毎にチェックを受ける、などおおよその目安を示して下さると行動に移しやすいと思うのですが...

ガイドラインが作られたのが2006年、それから7年が経過し近年大規模研究が行われているにも関わらず古いデーターばかりのガイドラインを示していることに少々疑問を感じます。ガイドラインは治療選択の決定をする上で大切な指標となります。循環器学会はガイドラインを定期的に更新するなど徹底して欲しいと思います。

ガイドラインは確固たる研究的エビデンスが作られてから作成されるものなので情報にタイムラグがあるという問題があります。現場で患者さんを診ている循環器の臨床医にとってガイドラインは古めかしい物と感じられるかもしれません。また研究的エビデンスを作る土台が弱くガイドラインが定期的に見直されない日本でガイドラインの情報を本当に信頼しても良いのか?という疑問も少なからずあるのでは、と思います。

豪の院の心臓血管看護認定コースで徹底的にガイドラインに添うことを教えられました。
ガイドラインは看護師にとって医師と同じ方向を向き患者さんに確実な情報を提供するための大切な指標だと思っています。もちろん看護師も最新の情報を把握することは大切です。患者さんにその最新の情報を提供しても良いのか医師と議論出来るくらい力がつくと良いと思います。

長くとりとめのない文章になってきたのでこの辺りで今回は終わりにします。

それでは皆さんTake care of your heart ! 心臓を大切に!

2013年3月19日火曜日

虚血性心疾患の危険因子を知ろう 1


心疾患を持つ方がより良く暮らしていくお手伝いをしたり、個々にあわせた心疾患マネージメントの方法をアドバイス出来るようホームページto Care for Your Heartを作成しました。こちらのブログでは心疾患に関連した情報を発信していけたらと思っています。

日本の虚血性心疾患の発症率や死亡率は欧米に比べると低いですが人口数で見ると日本では80万8000人もの方が虚血性心疾患を持ち暮らしているようです(厚生労働省平成20年調査)。発症後は慢性疾患として一生つき合っていく病気であり決して見過ごされてはならない疾患だと思います。

まずは予防や早期発見に焦点をあて、何回かに分けて虚血性心疾患の危険因子について書き留めていこうと考えています。


虚血性心疾患の危険因子
これらの危険因子が1つあるからといって将来必ず虚血性心疾患になるとは限りませんし、組み合わせにより反対にリスクが かなり高くなることがあります。

そのためオーストラリアでは虚血性心疾患のリスクを単に独立した「高血圧」「高コレステロール血症」という因子のみで判断するのではなく、研究的エビデンスを基にした因子の掛け合わせによる指標で決定する
      absolute CVD risk (虚血性心疾患の発症の絶対リスク)
を開発し使用しています。

一般の方が簡単に虚血性心疾患の発症の絶対リスクをチェック出来るようにこちらが作られています。

日本でもJALS急性心筋梗塞リスクスコアシートに数値を入力するとチェック出来るようです。関連記事はこちら

ここでの「絶対リスク」とは5年以内に虚血性心疾患を発症する可能性を数的に示したものです。オーストラリアでは下記のように記されています。

*Low Risk (低リスク)5年以内の発症率が10%以下 
2年毎のチェック要
*Moderate Risk (中等度リスク)5年以内の発症率が10-15% 
半年から1年毎のチェック要
*High Risk(高リスク)5年以内の発症率が15%を超える 
医師の指示に従う

もう少し視覚的に解りやすく表すと下記のような図になります。
オーストラリアの例であり日本にそのまま指標をあてはめることは出来ませんので参考程度にして下さい。とても解りやすいです。こちら参照に


年齢、糖尿病の有無、喫煙歴、性別、血圧、総コレステロールと善玉コレステロールの比率から5年以内の虚血性心疾患発症率を色分けで示しています。上記は糖尿病の無い方が使用する指標です。下記は糖尿病を持つ方へ使用する指標です。


糖尿病を持つと虚血性疾患をかなり高い割合で発症することが一目瞭然です。

この指標はFramingham Risk Equationに基づいて作られています。

フラミングハム(Framingham)の心臓研究所のことを知らない人は循環器医療に携わる者の中にはいないのでは?というぐらい有名な数々の心疾患に関するエビデンスを生み出している歴史ある研究所です。フラミングハムの研究データーを使い虚血性心疾患のリスクを方式に表したものが Framingham Risk Equationです。

Framingham Risk Equationはあくまでもアメリカ人のデーターが基盤となっており、この指標を他の国に当てはめた場合、誤差が出ることもあるようです。


イギリスではフラミングハムの指標ではリスクが過小評価されるということでQRISK
® calculatorを独自に開発し使用しているようです。インドや女性を対象にした研究でも過小評価されたという報告が上がっています。

日本にではすでに日本独自の指標が開発されているのでしょうか?

ご存知の方がいましたらぜひ教えて下さい。

虚血性心疾患の危険因子を知ろう 2では、上記に示した意外の危険因子と、危険因子のチェックなしで自動的に虚血性心疾患の高いリスク郡に入る方について記載します。